ホワイト・ライ―本当のこと、言っていい?
三年の二学期になると、さすがにもう部活やってる奴なんかいなかったけど、美術室にはたまに顔を出していた。
保健室みたいなもんだ。なんていうか、ちょっと休みにいくところ。
結衣といつも一緒に行くわけでもないけど、行けばあいつはだいたいいた。結衣は美術室の隅で自習してたりして、まだ本格的に美術室に入り浸っていた。
その日、俺が開けっ放しの美術室のドアをくぐると、春ちゃんが油絵をやっている部員をチェックするついでに、結衣に声をかけていた。
「来てるんだったら勉強してないで絵も描けばいいのに。重野、聞いてるか」
「あ、はい。聞いてない。なに?」
苗字を呼ばれて、結衣がやっと気づいて顔を上げた。
「なに?じゃないよ。何ですか、春山先生、だ」
「どうしたの。先生ごっこやってんの」
俺が割って入っても「ああ、シゲ。いや、東城」と春ちゃんがまだ芝居を続ける。何やってんだよ?
見回すと、二年達が笑いを堪えている。
「教頭に怒られたんですよ。特定の生徒だけ名前で呼んだりするのは、他の生徒に誤解を与えかねないので慎むようにだって。ね、春ちゃん先生?」
二年の新部長が説明してくれたけど、特定の生徒って、俺と結衣か。今更なんだよ。
重野って苗字が俺のシゲってあだ名とややこしいってことで、美術部では二人とも名前で呼ばれてた。
「なに、結衣に手出したんじゃないかって通報された?」
「そんなわけないでしょ!」
顔を真っ赤にして結衣が抗議する。わかりやすいにもほどがある奴。