ホワイト・ライ―本当のこと、言っていい?
「お前がいつまでも入り浸ってるから言われんだよ。帰ろうぜ」
「いい。今日はキリがいいところまでやってく」
迷うこともなく言い切ってから、結衣が急に問いかけるように俺を見る。相変わらず無駄に強い視線で。
それを避けて振り返ったら、今度は春ちゃんが間近で俺を見下ろしていた。
「今来たのに帰るの? 何しに来たんだよ、シゲ」
「春ちゃんに、会いに」
あっという間に「シゲ」に戻ったな、春ちゃん。
スケッチブックで頭を叩かれたから、今のは冗談って伝わったと思ったけど。
「いつでもおいで。待ってるよ」
声は笑ってたけど、目が真剣だった。担任でもない春ちゃんには、詳しいことは話してなかったのにな。
最後にちょっと、会いたかった。俺が中学で一番長く過ごしたこの場所で。
「じゃ、また」
美術室を見回して、軽く手を挙げて出て行く。
大声で言ったわけでもないけど、部員が全員俺を見てた。我ながらかっこつけたな、今の。
あいつがまだじっと見てる気がして、隅っこのほうは見られなかった。
都民の日に遊ぶ約束してたから「行けなくなった」って言おうと思ってたんだけど。結局何も言えずに終わった。
それが、あの中学最後の登校日。