ホワイト・ライ―本当のこと、言っていい?
死ぬほど暑いんだよ、東京。
高校時代を過ごした静岡の街は、夜になると冷えたから、熱帯夜が続くと街じゅうがあったまったままのこの大都市とは違った。
着慣れないワイシャツ姿で都心を回って、倒れそうだ。
「向こうはカジュアルでしたよね。俺らもクールビズ程度ってわけにいかないんですか」
「ばーか。ただでさえ怪しいベンチャーなんだから、見た目ぐらいきっちりしなきゃ話になんないんだよ。シゲは年より上には見えるけど、私服で行ったらただのガキだ」
平井さんは汗を拭きながらも足を止めない。
ただのガキだというのは認める。四月に十九才になったばかりだ。
リクルートスーツっぽくならないようにと綾さんが選んでくれたこのサマースーツも、着こなせてるかって言うと微妙だ。
「まぁでも、これでようやく実績作れたから。質とスピードあげてこのまま行けば、なんとかなるよ」
「はい」
頼もしいこの先輩は、わけのわからないガキである俺を気に入って、じいちゃんの工場の中で小さく起業して俺の共同経営者になることを即決してくれた。
イラストだとか広告だとかいうチャラチャラした仕事をじいちゃんが気にいるかは賭けだったけど、好きにすればいいと言ってくれた。
独立した親父が何をやってもうまくいかなかったのは、結局好きな仕事じゃなかったからじゃないかとじいちゃんは言ってた。
だから俺には好きなことをやれと。
親父は単に弱かっただけだと俺は思うけど。逃げただけだ、俺たちみんなに嘘をつき、裏切って。
それに、これがじいちゃんの言う「好きなこと」なのかはまだ全然自信がない。