ホワイト・ライ―本当のこと、言っていい?
確か出掛けるって言ってたから、夜遅くにシゲに連絡した。
【仕事のことなんだけど、相談。】
【どうした?】
【私、バイトっていうのやめてもいい?】
反応ないな、と思ったら電話が来た。
『やめるって、なんで?』
「あまり役立ってなさそうだし」
『そんなことない。尚人のほう手伝うの、俺が嫌がったから? やっていいよ、別に俺の顔色見なくても。綾さんが良ければそれで』
意外と慌てたようにフォローされる。
ほら、こういうところに騙されるの。大事にされてるように思っちゃうんだよ。
「だからね、バイトってなると気を使うから、ボランティアみたいな感じがいいんだけど」
電話の向こうでシゲが黙った。変かな、やっぱり。会社なのに。
『金絡ませたくないってこと?』
「うん。ちゃんとやりたいけど、でもできてないって思って気になるし。壁塗るのもやってみたいし……それに、そんなに儲かってたりもしてないでしょ?」
ふっと笑う声が聞こえた。
『平井さんがいろいろコネあって、意外と儲けは出てる。バイト代ぐらい出せるよ。結衣がタダ働きっておかしいだろ』
声だけで、笑いながら言ってるのがわかる。なんだか急に優しくなった。
『結衣が思ってるよりほんと助かってるよ。遊びに来たついでに手伝うって気持ちでもいいけど。なに、壁塗りたいの? 絵描きたい?』
「絵はどうせ下手だし」
電話の向こうで明るい笑い声がする。バカにするんじゃない、本当に楽しそうな声。
『高校でも描いてたんなら少しはうまくなった? 楽しみにしてる』
「そんなのでバイト代とかいらないから、ほんとに」
『じゃ、綾さんの仕事ちゃんとやった時間だけバイトにして、後は遊んでていいよ。壁塗ってばっかりだったらボランティアな。それでどう?』
なんか、年上の人と話してるみたいだった。年上の優しいお兄さん。
変なの、シゲなのに。
「うん、わかった」
『じゃあ明日。おやすみ』
シゲが言って電話が切れた。