ホワイト・ライ―本当のこと、言っていい?
「あいつ、絵描くの?」
聞いてないかと思ったシゲが突然質問してきた。絵の話になると聞こえるの?
「洋服のデザインとかを描いてる。あ、でも愛華たちには言わないでね。家の人に知られたくないと思う」
「経済学部って言ってたよな」
「そう。会計士継ぐんじゃないかな、一人っ子だから。九月から予備校に行くみたい」
全然やりたくなさそうだけど、対して反発もしていないらしい。諦めている感じだ。
「会計事務所の跡取りなのか。イケメンの上にハイスペックだなぁ」
尚人くんが言うようなことを、純本人もよく言われている。今後ますます無駄にモテるだろうと思うとかわいそうだ。
「でも親の言いなりで逆らえないの、全く」
「まぁ俺も変わんないな、そこは」
シゲが同情するように呟くのを聞いて、純がここにいたら喜んじゃうなぁと思った。でも全然違う。
純は、本当はファッションに関わりたいと言うことすらできない。自分の中に全部収めて終わらせている。シゲみたいに、押し付けられた環境でもどこでも自分の居場所を作れる人とは全然違う。
「純はシゲとは違うかな」
悲しい気持ちでそう言った。
純はどこか自分の人生を諦めている。家とか地元とかに心が縛られている。ファッション業界に行けば、純のようなタイプの人も結構いるんじゃないかと言ってみたことがあるけど。そうだねと微笑むだけだった。
ちらりとシゲを見ると、もうこっちを向いてもいなかった。良くも悪くも人を気にしない。そういうタイプだ、シゲは。