ふたりだけのアクアリウム
なにその意外性!
絶対に誰も沖田さんがボクシングをやってるなんて思いつきもしないであろう、信じられない趣味!
ていうか、水草水槽だけじゃなかったのね。彼の趣味。
「係長に呼び出されて、脅されて。流して聞いてたら逸美ちゃんの名前が出てきて。あのままあの女の腕をちぎってやりたかった、って言い出したの、係長が。……で、カッとなって気がついたら三発入れちゃってた」
沖田さんは穏やかな口調で話してるけど、内容は一切穏やかではない。
知らない一面が溢れ出てきて、それを飲み込むのに精一杯だ。
相槌も打てずに彼の色素の薄い目を見つめていると、その顔がふと緩んだ。
なんとなく諦めたような雰囲気を纏っている。
「僕のことや、他の誰かのことなら聞き流せる。だけど、逸美ちゃんのことだけは守りたかった。本当なら、君が危ない時に駆けつけるのがヒーローなんだろうけど。僕にはやっぱり無理みたいだね」
なんで、そんなこと。
仕事のことだって、諦めなかったんだから。
私のことも、諦めないでよ。
「無理じゃないです」
首をふるふると横に振り、係長の顔を挟んで沖田さんの手を握った。
「私の中で、沖田さんはちゃんとヒーローです」
「……………………巻き込んでごめんね」
きゅっと手のひらを握り返される。
好きって言ってしまいたいけど、ぶっ倒れている係長がいるのでやめておこう。
「逸美ちゃん。あと少しだけ、協力してくれる?」
視線を交わらせた彼の目からは、静かだけど確かな意思を感じた。
はい、と返事をする。
沖田さんが綱本係長から解放されるまで、きっと、あと少し。