ふたりだけのアクアリウム
7 冬のお届けもの


「ねぇ、これってなんの異常事態なの?」


茅子さんに尋ねられ、私は「さぁ」と答えを濁す。


12月。クリスマス商戦真っ只中。
だいたいこの時期はどの部署も仕事が忙しくて、残業残業の毎日。
もちろんそれは、事務も例に漏れず。

仕事内容はいつもと同じ。
捌く量がものすごく多いというだけ。


だけど今月、事務所内で確かにいつもと違うことが起きていた。


「なにかの間違いじゃないよね?」

「はい」

「沖田くんがスーパー沖田くんに変わったってこと?」

「…………たぶん」


こんなことってあるのね〜、と茅子さんは首をかしげながら感心している。

私たちは営業部の成績成績が記録されているホワイトボードの前に立っていた。
異常事態とまで言われている所以がここにある。


12月、沖田さんの営業成績がトップに躍り出たのだ。


それまでずっとトップをキープしていた綱本係長はブレーキがかかったように中間あたりをさ迷い、沖田さんとの差は歴然。
もう暦も後半に差し掛かっているので、普通に考えて逆転するのは難しそうだ。


「ふふ、スーパー沖田くん……か」


茅子さんらしい表現に笑みがこぼれた。


沖田さんは今月に入って、本当に本当に忙しそうで。
事務所にいても声なんてかけられないほど集中してパソコンと睨めっこしていて。

仕事帰りにご飯でも、なんて私からは言えなかった。

いくら残業の日々とはいえ、彼が私よりも早く帰る日なんて無かったのだから。


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