ふたりだけのアクアリウム


朝の情報番組のきょうの運勢だとか、月刊のファッション誌に載ってる占いだとか、そういう類のものを信じたことは無い。
身につけて幸せなれるものが本当にあったなら、もう世界中の人たちがみんな幸せになってると思う。


そんなことを考えてしまう私は、ひねくれてるのかな。


「佐伯、なにボーッとしてるんだ?サボりだってチクるぞ」


パタパタと慌ただしい事務所に、場違いな明るい声が聞こえて振り返る。
そこにいたのは、同期の山口。
手には何やら大きな紙袋ふたつ。


「サボってないよ。考え事してたの」

「集中力低下には糖分摂取が一番だからさ、持ってきてやったぞ」


ガバッと山口が開けた紙袋の中には、大量のお菓子。
そこには透明なシンプルな袋に入ったピンク色のチョコレート菓子があった。

そのお菓子にはなんとなく見覚えがあった。


「あれ?これって……」

「そう。クリスマス用に作ったサンプル。ラズベリーのやつ。多めに作ったけど商品化にならなかったし、賞味期限も近いからみんなで食べてよ」


そうそう。ミニケーキみたいな見た目で、茅子さんが「見た目が一番いい」と言っていたやつだ。
結局栗とカスタードのものが人気があったため、これはボツになったんだ。


私と山口の会話を聞きつけて、事務員のみんなが集まってくる。
みんな糖分を摂取したいらしい。

待ってましたとばかりに山口が笑顔で配り始めた。


「ほら、お前も食べろよ」


山口に3つほどそれを渡され、1つ開けて口に運ぶ。
甘酸っぱくて、中のパイ生地がサクサクしていて美味しい。

でも、私が一番好きなのはこれじゃなかった。


サクサクと食べ進めながら、山口に問いかける。


「あのさ、もう一種類あったよね?」

「ん?」

「ボツになったお菓子で、ビターチョコとキャラメルナッツの……」

「あー、あれな。そんなに在庫無いんだよな。だから事務所に配っても数が足んないと思って持ってかなかった。なに?佐伯はアレが一番好きなの?」

「うん!」

「アレ、マジで社内人気無かったやつだぜ」

「なんでだろう、美味しかったのに」

「苦いからだろ。甘さかなり控えてるもん。俺も好きじゃなかったわ」


それがいいのに。
甘くないのが良かったんだけど。


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