ふたりだけのアクアリウム


じっくり水槽を観察してみる。
数匹しかいない熱帯魚だけど、よくよく見ると小さな体に細かい白い斑点のようなものが浮き出ていた。

何かの病気だろうか?


魚の泳ぎ方や動きはいつも通りに見えるけれど、素人判断で大丈夫だと決めつけるのも怖い。


おそるおそるスマホを手に取り、沖田さんに電話をかけた。


会って話がしたいと伝えるのはウジウジしていたくせに、魚を言い訳にできると思った瞬間通話ボタンを押せてしまった自分がちょっと笑えた。


意外にも、沖田さんはすぐに電話に出た。


『はい、沖田です。逸美ちゃん?』

「お疲れ様です!まだ仕事中ですか?」

『さっき終わって、今帰ってるところだよ』


ほとんどの社員が半休の日なのに、こんな時間まで仕事をしていたという事実に驚く。というか、なんとなく申し訳なくなる。
彼は『どうしたの?』と用件を聞きたがった。


「お仕事で疲れてると思うんですけど、ちょっと緊急事態で……」

『元彼が来たとか?それとも奥さん?』

「あっ、違いますっ。熱帯魚が……」

『熱帯魚?』


さすがに沖田さんはそれだと予想はしていなかったらしい。
少し驚いたような声が電話越しに聞こえてきた。


「病気かなんなのか、お昼には無かった白い点々みたいな模様が魚の体についていて。ちょっと心配になってしまって」

『あぁ、そういうこと』


彼はすぐに理解し、そして一言告げた。


『今から行くよ』


えっえっ、今から?
聞き返そうとした時には、電話はもう切れていた。


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