ふたりだけのアクアリウム
帰ってきてそのままになっていた部屋を、とりあえずサッと片付けて、空腹で鳴りそうになっているお腹を落ち着かせるために冷蔵庫からチーズを出して口に押し込む。
おまじないのつもりで買ったミルキーピンクのミンクボールがついたバッグは部屋の隅に押しやり、テーブルの上に置いていたビターチョコもベッドの下へ隠した。
そうこうしているうちに、アパートのインターホンが鳴って心臓が飛び跳ねる。
思っていた以上に早い到着で、心の準備もまだ整っていなかった。
「どうぞ〜」と言いながら鍵を開けると、ドアの間から沖田さんが顔を出した。
あの、優しくておおらかな笑顔で。
「お邪魔します」
「すみません、こんなことで呼び出してしまって」
「大丈夫だよ」
彼は一度私の部屋に来ているので、初めて来た時のような緊張感は特になく、部屋の奥の水槽を気にしていた。
「早速水槽を見せてもらうね」
「お願いします!」
チャコールグレーのコートを脱いで、腕にかけたまま水槽をのぞき込んでいる沖田さんの背中に、「コートかけますよ」と声をかける。
ありがとう、と彼はコートを渡してきた。
暖かそうなウールのコートをハンガーにかけながら、
「大丈夫そうですか?」
と聞いてみる。
「んー、見たところ白点病って感じだね。まあ、魚を飼ってると一度は経験する病気じゃないかな」
「白点病?治りますか?」
「ちゃんとした処置をすればね」