ふたりだけのアクアリウム


スマホで白点病を調べていると、何も見ていない沖田さんがネットで出てきた通りの言葉をスラスラしゃべり出した。


「魚は取り出して塩浴させて、それから水槽の温度を1日1度ずつ上げて30℃にするの。白点病用の薬剤があるはずだから、水槽に投与して。5日くらいのサイクルで3回繰り返したら治ると思うんだけどなぁ」

「は、はぁ」

「死なせないようにするから安心して」

「はい……ありがとうございます。沖田さんは水槽博士ですね」

「全然。白点病は有名だから知ってるだけだよ。今からちょっと塩浴させようか?」


私の返事を待たずして、沖田さんはアレコレと動き回って熱帯魚のために尽力してくれた。
彼がやりくりしている間、私に出来ること。

それは…………。


「わあ、なんだかめちゃくちゃいい匂いがする」


リビングにいた沖田さんが、キッチンに顔を出して鼻をクンクンした。


「冷蔵庫の余り物で申し訳ないんですけど」

「余り物で作れるなんてすごいよ」

「ただの炒飯です」

「黄金の炒飯に思えてきたよ」

「ハードル上げないでくださいよっ」


中華鍋じゃなくて普通のテフロン加工のフライパンだし、大きなお玉じゃなくて木ベラだし、強い火力じゃなくてIHだし、卵がご飯のつぶをコーティング云々は見ての通りダマになってるし。

ご期待に添えるには程遠い出来だ。


でも、お腹を空かせていた沖田さんにはご馳走になったみたいだ。


「美味しい!味もちょうどいいよ」


と、目を輝かせて嬉しそうに食べてくれた。


< 116 / 132 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop