ふたりだけのアクアリウム
「沖田さんって、ビターなお菓子が好きなんですか?甘いのが好きなんだと思ってたから、社内アンケートでこれが一番って言ってたのを聞いて不思議だったんですよね」
「甘さは控えめなのが好きかな」
もぐもぐとふたりでチョコレート菓子を口に運びながら会話する。
しゃべるたびに芳醇なカカオの香りが鼻をついて、幸せな気持ちになる。キャラメルナッツもアクセントになっていていい。
お互いに口のなかいっぱいにお菓子を頬張って、部屋にもカカオの香りが広がった。
「じゃあ、最初に私が大量にもらっちゃったチョコレートのお菓子を、代わりにもらってくれたのはなんでですか?」
素朴な疑問ってやつだった。
なんでだろうって思ったから、深く考えずに尋ねただけ。
だけど、彼はふと真剣な表情になった。
「逸美ちゃんが甘いチョコ食べるたびに嫌な思いするのが耐えられなかったから。きっと、甘いチョコには逸美ちゃんのちょっと悲しい思い出が詰まってるのかなぁって思ったんだ」
「そ、それは」
「図星でしょ?それなら僕が食べちゃおうと思ったの。思い出ごと」
思い出ごと食べる、という表現は沖田さんらしいなと思った。
柔らかくて、それでいて優しい。
「君のためなら嫌いなものなんて、いくらでも食べるよ。どんなに甘いチョコレートでも」
あ、もうひとつ。
甘い、が増えた。
柔らかくて、それでいて優しくて、そして、甘い。