ふたりだけのアクアリウム


最後のひとつのビターチョコを、沖田さんが口にくわえる。

それをぼうっと見ているうちに、彼の顔が近づいてきて私の口の中にチョコが放り込まれた。
と、いうか。舌で押し込まれた。


私と沖田さんの初めてのキスは、チョコまみれの強烈なキスだった。


「……甘い?」

「んー」

「苦い?」

「んー」

「どっち?」


どうやって話しているのか、キスの合間に短い質問をしてくるのだけど。
私はというと、理性を保つのに精一杯で返事らしい返事なんか出来ない。
甘いような、苦いような、酸っぱいような。

━━━━━酸っぱい?


ほぼ息切れ状態で顔を離すと、口の端からタラリと何かがこぼれた。
それを、沖田さんがなんてことないようにペロッと舐める。

ビックリして顔を真っ赤にしていると、彼はいたずらっ子のような笑みを浮かべた。


「オレンジピューレが一番甘いね」


あ、そうか。
オレンジピューレが甘くて酸っぱいのか……。


「逸美ちゃんもどれくらい甘いか、確認してもいい?」


コクンとうなずいたその後は、もうよく覚えてない。




ただ、ずっと触ってみたかった沖田さんの髪の毛に触れて、柔らかそうだと思ってたそれはやっぱりとっても柔らかくて。

案外しっかりしてる彼の体にしがみついて、チョコレートよりもっとずっと甘い刺激に酔いしれる。

色素の薄い綺麗な目が私をとらえて離さない。
それが不思議と心地よくて。
ちょうどいい温度のお風呂に浸かってるみたいな、ポカポカしてくるような。


この人になら、いろんなワガママとか自分の気持ちとか、素直に言えそうな気がした。
それは、全部まるっと包んでくれる大きな心を彼が持ってるからだ。



じんわり滲む涙がこぼれないようにした。

初めて知った。
人って幸せだと泣けるんだって。


沖田さんの知らない一面を知るたびに、どんどん好きになる。

それはきっと、これからもずっと。


彼がくれたのは、とびきりのクリスマスプレゼントだ。







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