ふたりだけのアクアリウム


これは、きっと神様がくれたチャンスなんじゃないかと思った。
一度きりのチャンス。
もう二度とは訪れないチャンス。


━━━━━絶対、逃さない。


「僕の車、そこのパーキングに停めてるの。良かったら乗っていかない?家まで送る」

「えっ……」


提案してみたけど、彼女はすごく困っていた。
断る理由を探してるような顔をしてる。

あまり強引でも引かれるかな。


「あの、すみませんが寄るところがあって……」


まずい、断られる!


「昼間チョコレートくれたでしょ。そのお礼だから」


そういえば昼間に彼女からチョコレートをもらったんだった。
もうなんでもいいから理由をつけて彼女のそばにいたかった。


今まで大して話すこともなかった他部署の男にこんなことを言われて、さぞ困らせたことだろうと反省する。

それでも、諦めたくなかった。


「水草水槽って知ってる?」


僕に残された切り札はそれしかなかった。

興味を持ってもらえないかもしれない。
普通の女性なら「なにそれ?」で終わるような地味な趣味だから。



必死に捻り出した、僕の勇気が詰まった誘い文句。


あれが、運命を変えたんだと今でも信じてる。







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