ふたりだけのアクアリウム


「水草水槽って知ってる?」


唐突に問われて、反射的に首を振った。


「水槽の中に水草を入れて育てるの。魚はいない。ただ水の流れや空気の狭間でゆらゆらと揺れる水草を見てると、不思議と無心になれて。ちょっと癒されるんだ」


いったい何の話を始めたのだろう、彼は?

完全に私の頭の上にははてなマークが並んでいた。
目もきっと点になっているかも。


「水草水槽って言葉、初めて聞きました」


よく分からないながらも答えると、沖田さんが私に尋ねてきた。


「見に来ない?うちにあるから」


え?うちにあるって、水草水槽が?


ポカンと口を開いたままだいぶ間抜けな表情をしているであろう私を、彼はいつもみたいに穏やかに、会社にいる時と変わらない姿で見ていた。


「だって佐伯さん、最近いつも悲しそうだから。癒しが必要かと思って」










どうして沖田さんは、私を「悲しそう」だなんて言ったんだろう。

泣いたりしてないし、愚痴ったりもしてない。
会社では「カケラ」も見せまいと隠してきたのに。


それでも見透かされているような気持ちになるのは、どうしてなんだろう。






沖田さんは、不思議な人。








< 16 / 132 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop