ふたりだけのアクアリウム
彼の少し野暮ったい感じの一重まぶたも、薄い唇も、重たい前髪も、冴えないと思い込んでいただけで、実はそんなことないんじゃないかと思い始めていた。
肌も綺麗だし、雰囲気が暗いだけで実はわりと顔は整ってる?
手を伸ばしたら届きそうな距離にやわらかそうな彼の髪の毛があるけど、犬や猫じゃないんだからさすがに撫でるわけにもいかなくて。
もっと今みたいに気さくな感じで話をしたら、営業成績も良くなるんじゃないの?
……なんて、余計なことまで考えた。
「━━━━━佐伯さん」
「はい?」
名前を呼ばれたので、半分無意識に返事をする。
すると、沖田さんはとても困ったように私から目をそらした。
「出来れば僕じゃなくて、水槽を見てほしいんだけど。僕の顔に何かついてる?」
…………しまった!
何故か沖田さんを見つめていた!!
言われて気がついて、「すみませんっ」と縮こまる。
いい大人がぼんやりと見つめ合うのって、絶対おかしい。
「沖田さんって意外と綺麗な顔してるなぁと思って」
「き、綺麗?そんなの言われたことないよ。女の子じゃあるまいし」
あれ、なんだかちょっとふてくされてる。
綺麗っていうワードが気に入らなかったらしい。
「かっこいいって言った方が嬉しいですか?」
「褒めても何も出ないよ」
「ふふ、照れてる」
年上をからかっちゃいけないと思いつつも、素直に反応してくれるからついつい吹き出してしまった。
「ありがとうございます。沖田さんのおかげで、少し元気になりました」
座り直して改めてお礼を言うと、沖田さんはそうじゃないよ、と首を振った。
「たぶん、僕じゃなくて水草水槽のおかげ」
「………………どっちもです」
それは、本当の本当に私の本音だった。