ふたりだけのアクアリウム


窓を背にした場所にある私のデスクは、恰好のサボり場所と言っても過言ではない。
月末の激務だった先週に比べると当然仕事量はだいぶ減っていて、心にも余裕がある。


仕事が始まって、取引先からの注文書の取りまとめや何本か小売店に電話をかけて、さて特にやることが無いとなった時。
目の前にあるパソコンを使って、気になることを調べてみた。


『水草水槽』と入力し、検索をかける。
すぐにものすごい件数の検索結果が表示され、沖田さん以外にも育ててる人っているんだと感心した。


失礼ながら、つい数日前までは水槽には魚がいないと意味が無いと思っていたので、趣味としてはあまり知られていないと勝手に決めつけていた。


でも、この検索結果の件数を見るとわりとメジャー……なのかな。


チラッと隣のデスクに座る後輩の女の子を見てみる。
彼女は大あくびをしながら、『今年の冬はこれでアツアツ!彼と過ごすクリスマスデート勝負服』という、なんだかひと昔前に流行ったようなフレーズの見出しが目立つページを、隠すことなく堂々と見ていた。


なるほど、これくらい堂々としていればサボってると思われないのか。
20代前半のゆる〜い仕事ぶりに驚きつつ、自分のパソコンの画面へと視線を戻した。


読み進めていくうちに『水草水槽』で検索したのに、違う単語がちょくちょく出てくることに気がついた。


「アクアリウム……」


水草水槽は、別名アクアリウムというらしい。
アクアリウムというのは生物を飼うための施設や設備を指していて、それは魚だけじゃなく水草も同様だという。


プラネタリウムみたいなネーミングだな。


下の方に『初心者向けのアクアリウム』という項目を見つけて、どれどれと開こうとしたら。

突然頭の上にポンッ!と何かが乗せられて、驚きとサボってるのがバレたという焦りで、ビクッと過剰に体を震わせてしまった。


「ぎゃあ!」


小さな短い悲鳴を上げたら、頭上から「おいおい」と呆れたような聞き慣れた声が聞こえた。


「お前、もしかしてサボり?」


うぅ。厄介なのに見られた。
この声は同期の山口だ。


見上げると案の定、彼がニヤリと笑って私を見下ろしていた。


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