ふたりだけのアクアリウム
気になる気になる気になる!
でも、たぶん沖田さんは教えてくれない。
そのうちじっくり話してる時にでも聞き出さなくちゃ。
そんなことを企んでいたら、沖田さんがボソッとつぶやいた。
「本当に癒し効果があるのは、水草水槽じゃなくて佐伯さんかもね」
「━━━━━えぇっ!?」
少し間を空けて飛び退くようにビックリしていたら、営業部の人が急いだように小走りでこちらへ近づいてきた。
「あ、いたいた!イチロ!係長がお呼びだぞ」
「はーい、今行きます」
即座に返事をした沖田さん。
その場にいた私は、あれ?と首をかしげた。
私なんかに癒し効果があると口にした沖田さんにも驚いたけど、それ以上に驚いたのは…………。
「沖田さんの名前って、カズミチじゃないんですか?」
沖田一路って、営業部のホワイトボードに書いてあったはずだけど。
読み方が違っていた。
「カズミチじゃないよ、イチロだよ。一と路でイチロ。そのままで読みやすいでしょ」
「えー、そうなんだ。勘違いしてました……」
あららら、と苦笑いしていたら沖田さんは思い出したように私の方へ歩み寄り、そしてそっと身をかがめて耳元に口を寄せてきた。
「そういえば、佐伯さんは逸美だよね。同じだよ、いっちゃん」
「…………イッチャン」
綺麗な茶色の瞳がよく見えるほど、近い距離だった。
意味不明に「イッチャン」と反芻した私の思考は、もはやどこかへ飛んでいた。
それほどまでに、不覚にも不意に近づいてきた沖田さんの顔と、耳元で囁かれた声にドキッとしてしまった。