ふたりだけのアクアリウム
ほんの少し背伸びをして、営業部の方をうかがってみる。
昼間はいつもほとんど外出している沖田さんが今日は事務所にいて、背中を丸めて試作品を食べていた。
その姿がなんだか可愛らしく見えたのは誰にも内緒だ。
営業部でも一番人気は栗のお菓子のようで、今年のクリスマスの目玉商品はもしかしたら決まったも同然かも。
そんなことを思っていたら、沖田さんと目が合った。
ぎこちなく微笑むと、彼は少しだけ目を細めて優しく笑った。
彼の部屋で見た時と同じ、おおらかで淀みのない笑顔だった。
妙にドキドキしてしまって、無駄に多く瞬きをしてしてしまった。
癒し系男子っていう言葉があったなら、それは沖田さんにピッタリの言葉なんじゃなかろうか。
ほっこりするインテリアみたいな人なんだよね。
手触りのいいクッションとか、それこそ観賞用の水草水槽とか観葉植物とか。
そこに自然にいて、優しい気持ちにさせてくれるような。
だから自己主張はほとんどしないので、営業部でもかなり地味な存在なのかもしれないな。
試食を終えて、感想をアンケート用紙に書き込む。
あとはこれを事務所のみんなの分を企画部へ持っていくという流れだ。
「いっちゃんはどれが1番好きだった?」
茅子さんに尋ねられて「キャラメルとチョコのやつです」と正直に答えると、少し驚かれた。
「え!苦くない?いっちゃん甘党だと思ってたのに」
「甘党なのは私じゃないですよ」
「じゃあ誰?」
その話は避けてるっていうのに。
私の答え方も良くなかった。
答えに困っていると、突然沖田さんに話しかけられた。
「アンケート回収してもいいですか?」