ふたりだけのアクアリウム
しばらくして、もらったチョコレート菓子の箱をひとつ、カーディガンのポケットにしのばせて廊下に出た。
箱の大きさは手のひら半分くらいで、高さもそんなにない。
ポケットにするりと入るサイズ。
試しにちょっと食べてみるかと思い立った。
疲れたから、糖分補給。
パリッと箱を開けて、中から個包装されたチョコレートが3つ顔を出した。
細長い形状でチョコレートは三層になっており、ビター・ミルク・ホワイト。ホワイトの割合が一番少ない。
細長いから、袋から半分くらい取り出して食べることを考えたら「ちょっとつまむ」のにちょうどいいかも。
商品開発部の人たちはそこまで考えて作ったのかなぁ。
チョコレートを少しだけ口に含んだ。
甘ったるいホワイトチョコレートの味が、口内にまったり広がる。それからコクのあるビターの香り。
甘さ控えめのつもりかもしれないけど、ちっとも控えめじゃない。甘さの主張がすごい。
でも、それがチョコレートなんだよね。
この甘さがいいんだって、言ってたもんなぁ。
チラつくあの人の影に息苦しさと焦燥感を覚えていると、すぐそばにある事務所のドアがゆっくり開いた。
中から出てきたのは、さっきこっぴどく叱られていた沖田さんだった。
なかなか重そうなダンボールいっぱいの資料を抱えて、ヨタヨタしている。
身長はそこそこある人なので、私は彼を見上げながら声をかけた。
「お疲れ様です。………………あの、手伝いましょうか?」
なんて言うか、ものすごく大変そうな印象を受けたから。
男の人でもフラつくくらい重いものを持たされて、ちょっと可哀想に思ったのもある。
先ほど怒りん坊の綱本係長にやられていたし。
沖田さんはダンボールに遮られた視界を首をかしげることによってどうにか広げて、やがて声をかけてきたのが私だと気づいたらしい。
ほんの少し驚いたように眉を上げたものの、ふにゃりとした笑みを口元に浮かべた。
「大丈夫。女の子にこんな重いものは持たせられないよ」
「女の子って……」
入社したての若い女子社員に向けられた言葉ならまだしも、れっきとしたアラサーだという自覚があるので「女の子」と認定されていることにビックリした。
何かで読んだんだ、アラサーは27歳からだって。
だから私はそうなんだと思っていた。