ふたりだけのアクアリウム
沖田さんは事務所にはいなかった。
きっと外回りに行ってるんだ。
念のため営業部のホワイトボードを確認してみると、沖田さんの欄には『外出』と書いてあった。
さっきの契約書はクリアファイルにしまって、自分のデスクの引き出しに入れておいた。
「あ〜、間に合わなかったか……。手伝えなくてゴメン」
報告書を作成し終えたらしい茅子さんが、私が戻ってきたのを見て申し訳なさそうに謝ってきた。
「いえいえ。報告書は無事に?」
「うん、おかげさまで部長に提出してきたよ」
「それは良かったです」
結局、沖田さんはその日、私が退社するまで会社に戻ってくることは無かった。
あの契約書は私のデスクに入ったままだった。