ふたりだけのアクアリウム


いまいち踏ん切りがつかないでいると、彼はお店のさらに奥に私を案内してきた。
言われるがままついていくと、数種類の水槽が並んでおり、そこに色々な装置やら材料やらが置いてあった。


「これ、初心者パックなんですよ」

「え!そんなのあるんですか?」

「個々で買うよりもお買い得になります」


それは助かる。
初心者パックなんて便利なものがあったのね!

感動しつつ、水槽を眺めてみる。


「この60センチの水槽が一番オススメですよ。どうです?ヒーターと濾過器、水温計もついてます。全部込み込みで3万円です」


どこかの電化製品を通販しているかのようにスラスラと話す店員の言葉を聞いて、金額よりも先に水槽が大きいなという感想を一番に思った。

私の住んでいるアパートの部屋は正直あまり広くはない。
単身者用のアパートなので、出来ることならもう少し小さい水槽だとスペース的に助かる。


「最低限の設備はこれで整いますし、あとは好きな熱帯魚を入れれば完成です」

「もう少し小さい水槽ってありませんか?」


ゴリ押しの店員に尋ねると、彼は肩をすくめて鼻でため息をついた。


「60センチが一番飼いやすいですよ?あまり狭い水槽に入れても魚たちが窮屈に感じてしまうでしょう」

「はぁ……なるほど」


沖田さんちにあった水槽は、もっと大きかったように記憶している。
それに比べたら60センチは小さい方なのかも。


店員さんが言うなら間違いないだろうし、買おうかな。

決意して顔を上げたら、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


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