ふたりだけのアクアリウム
「たったそれだけの設備で3万円は高すぎませんか?」
いつもよりも凛とした声だったので、一瞬そうなのか判別に困ったけれど。振り返ったら、やっぱりその人だった。
「沖田さん!どうしてここに?」
「ごめん、このお店に入っていくの見かけて、つい……」
沖田さんは少しだけ恐縮したようにそう言って、今度はさっきの男性店員に向き直ってもう一度聞いた。
「ヒーターも濾過器も、ホームセンターで買った方が断然安いですよ。この値段設定は間違ってます。セットで売るなら少しくらい安くしてあげるのが普通じゃないんですか?」
「あー……、いや〜、そうですかねぇ」
なんとも歯切れの悪い答え方で、目をそらした店員はポリポリと頭をかいた。
「もしかしてやってらっしゃる方?」
「まぁ、一応」
「あーじゃあ、営業妨害になりますんで、帰ってもらえます?」
爽やかな笑顔はどこへやら。
彼は不機嫌そうな顔をして、何がなんだか分からない私にシッシッと手で追い払う仕草をした。
「行こう、佐伯さん」
沖田さんに腕を引かれ、目まぐるしい展開についていけないまま外へ連れ出された。