ふたりだけのアクアリウム


ガヤガヤ賑わっているアーケード街に降り立った私は、沖田さんに「あのぅ」と話しかける。


「イチから説明してもらえませんか?」

「要するに、ボッタクリってやつ」

「ボッタクリ!?」


大声を出してしまって、急いで手で口を押さえる。

こんな街中の、よくお客さんも出入りしているペットショップでそんなことがあるなんて思ってもみなかった。


「お客さんに話しかけて、素人だったら高いのを売りつけるの。ネットで調べるとこのお店はブラックだって載ってるよ」

「え〜……そこまで頭が回らなかったです……」

「買う前に声かけてよかった」


沖田さんはホッとしたように笑い、そして途中で思い出したのかハッとした表情に変わった。


「あ、佐伯さんを見かけたのは本当に偶然だからね!ストーカーみたいにつけてきたとかじゃないから!」

「…………ふふ、大丈夫です。誤解なんてしませんよ」


変なところ心配性なんだと意外に思いつつ、「ありがとうございます」と彼に頭を下げた。


「沖田さんのおかげでボッタクリに遭わずに済みました」

「……佐伯さん、熱帯魚飼うの?」


アーケードの中をゆっくり歩きながら沖田さんが問いかけてきたので、コクンとうなずいて見せた。

そうだ、簡単なことなのに忘れていた。
私にはすぐそばにアクアリウムのプロがいたじゃない。
彼に聞けばよかったんだ。


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