ふたりだけのアクアリウム
6 溶けて、消える
気持ちがソワソワして、落ち着かない。
最近は毎日そんな日々を過ごしていた。
沖田さんと熱帯魚を買いに行ってから、もう数週間が経過した。
あの時背中に感じた彼の体温も、私の体に回された彼の腕の感覚も、時間の経過とともに薄れていく。
それが寂しかった。
基本的に彼は事務所にいない。たいてい営業のために外回りで外出している。
「変わりたい」「足掻いてみる」って言ってたけど、綱本係長は相変わらずの態度。
何かを係長に言ったような様子は感じられなかった。
土壇場で怖気付いて、やっぱり係長に言えないとか?
このままでもいいか、と思い直したとか?
気になるけれど、彼を呼び出してまで聞き出すことも出来ないでいた。
「お魚さんたちは元気?」
会社のそばのカフェでワンコインランチのホットサンドを頬張りながら、茅子さんが尋ねてきた。
彼女には熱帯魚を飼い始めたことを話していた。
その時は「突然の趣味ね!」と驚いていたんだっけ。
「元気ですよ〜。毎日癒されてます。水草にかくれんぼしてる時もあって、混ざりたいくらい」
「あーなんか平和だわぁ。いっちゃんにピッタリの趣味だね〜」
「山口には地味だとか退屈だとか、散々罵られましたけどね」
あの無神経男のことを思い出して、ため息が漏れる。
彼にはいまだに沖田さんとのことをしつこく聞かれる。付き合ってるのか、どこがいいんだ、と。
だから、そのたびに「ほっといてよ」と言い捨てる。
それでも彼はめげない。
「山口くんってアレよね。典型的な小学生タイプ」
え?と聞き返しながら茅子さんと同じホットサンドをかじったものの、少ししんなりしたレタスだけはうまく噛みちぎれず、結局ベロンと抜けてしまった。
レタスに悪戦苦闘している私に、平然としていた茅子さんが言い放つ。
「好きな子ほどいじめたくなるタイプってこと。誰がどう見てもいっちゃんのこと好きだもんね」
「そ、それはっ……、ゴホッ」
はむはむしていたレタスを吹き出してしまった。