ふたりだけのアクアリウム
その声はちょっとだけ悔しさが滲んでるような気がした。
少し前には感じられなかった、悔しさが。
諦めで塗りつぶされていたそれが感じられて、心のどこかで安堵してしまった。
『あれから係長からの契約横流しの申し出は断ってるんだけど。まぁ、当然だけど気分を害してるみたいで、風当たりはいっそう強くてね』
「脅迫とかされてないですか?」
『あはは、大丈夫。脅されても怒鳴られても、僕はあまり気にしないタイプだから』
脅されてるんじゃん!
と、言いかけて飲み込んだ。
そりゃあ、係長にとって沖田さんは都合のいい部下だっただろうから、突然拒否されたら面白くないのは当たり前だ。
『心配かけてごめんね。今僕なりに色々動いてて、もう少しだけ時間が必要なんだ』
ゴクッと喉を鳴らし、のほほんとしている沖田さんに本題を切り出す。
「私……実は、この間の法人との契約書を持ってるんです。沖田さんが作成した、最初の契約書です。さっきデスクにあったのを見つけて、保管してたの思い出して……」
クリアファイルに視線を落とし、ぎゅっと握りしめる。
「何かの役に立ちませんか?」