ふたりだけのアクアリウム


給湯室や裁断室、それから資料室も見たけどいない。
そうなると、会議室?


パタパタと廊下を走ってふたつ並んだ会議室の前までたどり着いた。
ひとつは使用中の札がかけてあり、何人かの話し声。

ということは━━━━━。


もうひとつの会議室のドアをノックもなしに勢いよく開けた。


「!!!」


中にいたのは、スーツ姿のふたりの男性。

案の定、沖田さんと綱本係長だった。


私は勝手に脳内で、バターンと倒れた沖田さんが床に伸びていて、係長が勝ち誇ったように見下ろしている姿を思い描いていた………………のだけれど。


「…………あ、あの……。これは……どういう状況ですか?」


目をぱちくりさせて、おろおろと視線を泳がせてしまった。
思ってた展開と違う。


確かに床に倒れている人はいた。
だけどそれは沖田さんではなく、係長の方だったのだ。

完全に気を失って伸びきっている係長の顔をのぞき込むようにして、沖田さんが屈んでいるところだった。


「堪忍袋の緒が切れちゃった」


こんなとんでもない状況なのに、沖田さんはあはは、と笑っていた。いや、やや困り気味ではあったけれど。


まったく事態を飲み込めない私がパチパチと瞬きを繰り返していると、「逸美ちゃん」と沖田さんが続けた。


「申し訳ないんだけど、お水とおしぼり持ってきてもらえる?」


混乱する頭をどうにか稼働させて、無理やりうなずいて会議室を出る。


いったい、何があったっていうんだろう?


< 98 / 132 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop