しずく
田中さんはこうやって色んな所で、物で姉を思い出して悲しい顔をするんだろうな。

一緒に過ごした部屋
一緒に聞いた音楽
一緒に歩いた景色
日常に姉を思い出すきっかけは転がっている
そのたびにあんな顔をして姉を思い出すんだ、と思ったら胸が痛んだ。


忘れたらいいのに
忘れたら楽になれるのに

それは田中さんもわかっているんだろうな。



ただ
忘れられないんだろうな
姉と過ごした大切な日々を
忘れたくないんだろうな
忘れたら姉も忘れそうで
田中さんも必死なんだな





田中さんをちょっとだけ失恋したばっかりの女の子みたいだと思った。
ただ女の子は案外すぐに立ち直るんだけど田中さんは好きのままひとり取り残されて行き場の無い想いを持ちながらここまで10年間歩いてきたんだろうな

と思ったらまた胸が痛んだ
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