サプライズ★フィナーレ
朝比奈兄妹
「愛梨……愛梨っ」


今にもデスクで、眠りに落ちそうな私の前の席から、翼の声がした。

ハッとして顔を上げると、翼の持つスマホが震えて正午を知らせた。


「ねぇ、天辺でランチしよ」


「……うん」


本当は、公園前のカフェでオムライス食べたかったんだけどな。

それ以上に、翔に会いたくない。

……あ、そっか。

今日の天辺ランチは、翼が先月から楽しみにしてた、月一のミステリーランチだ。

仕方ない、どうかどうか会いませんように。


「行こう」


オムライスを諦めてドアに向かい、開けて振り返ると、翼はまだ呑気に手鏡を持って髪をとかしていた。


「ほんとは、外行きたいんでしょ? 週末また翔君に可愛がられた?」


苛められた? の間違いでしょ……。

一緒に帰国して半年経つけど、日本語の言い回し忘れてない?

ていうか鋭すぎ。


「ったく奴は、いまだに小学生の好きな娘苛めレベル。今度は、何された? 私が、蹴り入れてやる。……言いたくないくらい低能か。ラジャー! いってらっしゃい」


「……ありがとう」


さすが翼。
もう十年近い付き合いの翼は、何も言わなくても大抵のことは、お見通し。
翼は、単に私が素直すぎるだけって言うけれど、それは唯一、翼だけが信頼できる友達だから。
翼は、私と同い年で栗色のショートボブが似合う明るくサバサバした性格。
巷では、人気上昇中のモデルさん。
そんな彼女は、私の両親の大のお気に入りで、
この超高層ビル二十五階にあるモデル事務所も、父が翼の為に設立した事務所なの。
既に他界された御両親と大親友だったから、翼と翼の兄・翔輝君を、我が子のように可愛いがっている。
そして私は、事務を主として翼をフォローするのが仕事である。
翼に太陽のような笑顔で見送られた私は、感謝しながら手を振り、笑顔でオフィスを後にした。

< 41 / 558 >

この作品をシェア

pagetop