サプライズ★フィナーレ
いったいどうしたの?

もう十分以上、裏路地をただ歩いているだけ。

ずっと前を見ているだけの横顔を、半歩後ろから伺うことしか出来ない。


「……具合悪いの?」


「え? ……あ……いや」


「無理しないで帰ろう」


翔輝君は、大通りに向かい出す私を低い小声で呼ぶと、いきなり抱き締めてきた。

私は、驚きのあまり反射的に逃げようとするけど、とても無理。


「……痛い」


「ごめん、今だけ……」


悲しみの奥底から絞り出すような切ない声に、私は縛られたように動けなくなり、そしてあることに気付いた。

……香水の香りが、しない。

昼に話した時は、いつもの香りがしていたのに。


「……落としたの? 香水」


彼は、私の質問に力を緩め驚愕の表情で見下ろすと、無言のまま背を向け、急いで夜道に溶けて行った。

私は、その背中を見送りながら、なぜか翔を見送る気分でいた。
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