サプライズ★フィナーレ
その後、珍しく翔輝君から連絡はなかった。

一昨日の彼は、本当に変だった……仕事で何かあったの?

ずっと毎日連絡くれてたから、気になって仕方ない。

でもそれ以上に気になるのは……。

そして来てしまった。

雲に覆われた夕暮れの下、高層ビルを見上げるけれど、入る勇気もなく溜め息ばかり。

あ、雨……。

傘もないし、中に入る勇気もないし、誰かに見られたら嫌だし、もう帰ろう。


「何してんだ?」


伊達メガネを指で整え、大きなリボンがサイドに付いた、可愛くてお洒落な白いキャスケットを深く被り直した時、前から聞きなれた声が聞こえてきた。

……嘘!? 翔……。

よりによって、一番見つかりたくない人に見られるなんて。


「……翔輝?」


「……」


小雨の中、何も答えられずにいると、翔はいきなり左腕を掴み走り出し、すぐ隣のカフェ前で立ち止まる。

……あれ? 翔も香水付けてない。


「翔輝まだと思う。……少しいいか?」


頷くとブルーのハンカチを差し出し、私の右腰に手を当て中へと促した。

……ほんの数秒の温もりに、頬が熱くなるなんて本当に悔しい。

私は、ハンカチで紅い頬と簡単に乱された鼓動を隠しながら、愛しさ募る背中に付いて行った。
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