青春メトロノーム




「よう。病院で暁に襲われて逃げ出したんだってな」

「……え?」

「嫌がる百花をベッドに押し倒した暁は、力を使い果たしそのまま倒れたが、百花の名前を呼び続け……」

「何? 暁どうしたの? なんでお兄ちゃんが此処に居るの?」

お兄ちゃんは県外の医大に通っているはず。
なんで学校をさぼって病院から飛び出して、丘の途中で泣きわめいた私がお兄ちゃんの車の中にいるの?

「んーっとな、その前に」

ぺちん。
蚊が頬に止まる程度の優しいビンタに目を丸くする。

「暁は心臓が丈夫じゃねえんだ。驚かしたり、走らせたり、心臓に負担を与えるんじぇねえ」
「……ごめんなさい」

「落ちついたらちゃんと謝れよ。っとに。偶然俺が通りかからなかったらどうなってたか」

「なんでお兄ちゃんが此処に居るの?」

まだ夢から覚めたばかりでボーっとしている私に、お兄ちゃんは振り返る。

癖っ毛で猫みたいなふわふわの髪は、暁と少し似ている。
でもお兄ちゃんは目が垂れてる。銀のフレームに、細くて下がった目。
穏やかそうな優しそうなお兄ちゃんと言われるけど、それは違うと言っておこう。



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