青春メトロノーム
「暁が嘘を言うはずないって分かってるのに、暁を嫌わなきゃ颯太が現れない気がして、叫んだの。叫んでも泣いても、暁も大切だから嫌えないの」
じわりと涙が込み上げてきたけれど、泣きすぎて目元がヒリヒリするだけで、泣けなかった。
それに声も枯れて、お婆さんみたいに酷いガラガラで干からびた声だ。
「試練だな、それは」
「……試練?」
お兄ちゃんは何故かもう一度車のキーを回すとエンジンをかけた。
「仕方ねえ、ドライブに行こう」
車庫には入らずに、Uターンすると、お兄ちゃんのオンボロの国産中古車は、田舎の田圃道を進みだした。
「今日は、俺の就職先に挨拶に行って来たんだ。したら、お前が騒ぎ起こしててさ。就職ダメになったら、お前まじ許さんからな」
「嘘! ごめんね、お兄ちゃん。でもじゃあ、お兄ちゃんもこっちに戻ってくるの?」
「そ。俺はあの双子を見たときから医者になるって決めてたから」
走らせたオンボロ車は、目的地までに3回もエンストしたけれど、無事に到着した。
お兄ちゃんが夜風を避ける為に私の肩にかけてくれたのは、いつ選択したのかわからないようなボロボロのタオルだった。
連れて来られた先は、海。
私の家からはバスで行けない場所。
「お兄ちゃん……」
「12歳も離れた妹なんて複雑だったんだがな、お前可愛かった。すっげえほっぺとか赤くて。もうめっちゃ可愛くて」
「何の話だよ……」