青春メトロノーム
おばさんはプリンを二つ取り出すと、一緒に甘い珈琲牛乳を注いでくれた。
おばさんだって辛いのに、私のために帰ってくれたんだよね。
「そういえばね、百花ちゃん」
「うん」
「あの子の部屋の目覚まし時計って、なんで唯一動いてるんでしょうね」
「?」
おばさんの言葉が分からず、私は首を傾げる。
「貴方のも動いてるの? 颯太のは壊れちゃったわ」
その言葉も意味が分からず、おばさんが次に何を言うのか待っていた。
でもおばさんは少し困った様子で微笑むだけだった。
そしてリビングに置かれたピアノに向かい、座った。
おばさんは何か楽譜を開く。すると巻物みたいに折りたたまれていた楽譜が顔を出した。
そしておばさんはメトロノームを取り出す。
古くて黒いメトロノームではない。安っぽい色が塗られた新しいメトロノームだ。
「あの子、全然リズム感がないの。ふふ。起こしてきておやつって言ってくれる?」
おばさんが長い指を、スラスラ動かす。
その音楽はどこか悲し気に、そしてどこか憂いを帯びて、外の花と一緒に揺れていた。