青春メトロノーム
その音を聞きたくなくて私は、二階の暁の部屋へ向かう。
階段を上ってすぐの部屋で、微かな物音がしたので、そこをノックした。
「暁、入るよ」
中で咳き込む声がして、そっとドアを開ける。
すると風で揺れるカーテンの下、ベットの上できちんと布団にくるまっている暁の姿があった。
「暁、おやつ」
「んー。おやつ、なに?」
整頓された机の上。きちんと巻数どおりに並べられた本棚。
颯太の部屋と大違いだ。颯太は……。
いいや、颯太は小学校最後の試合で事故にあって時が止まったんだ。
暁と比べられないんだよ。
「おい、百花?」
「ああ、ごめんね。おやつはプリンだよ。商店街のケーキ屋の」
「ああ、懐かしいな」
起き上がった暁が、髪を掻き上げる。そのあとベットサイドの時計を掴んだ。
「それ、まだ持ってたんだね」
颯太はすぐに壊してしまったけど、三人で一緒に買った目覚まし時計だ。
颯太も暁も別々のゲームのキャラクターを選んでいたっけ。
「お前のはクローゼットの中。颯太は、壊した。俺のだけ、動いてる」
「そうそう。私のはうんともすんとも言わなくなったんだよ。で、おやつ食べに降りようよ」
昨日ことをちゃんと謝ろうと思っていたのに、なぜか互いに話題に触れるのが気まずくて時計なんかの話をしてしまった。