青春メトロノーム
絞り出した声は、今にも壊れてしまいそうなほど弱弱しく、それでいてとても悲しい声だった。
涙と共に暁が消えてしまいそうな、声だった。
「一度だけ。この一度で、運命を変えてくる。そうしたら、俺と颯太は入れ替われる」
「暁?」
それは突然だった。
一階ではピアノを弾いているおばさん。
お盆にのせられた開封待ちのプリンと、氷が解けてコップが汗をかいている。
経った今まで、普通の日常だったじゃない。
私だけ、心が弱いから颯太が生きているって幻想の中生きていた。
庭には花が揺れていて、私と暁は触れられる距離にいた。
喧嘩だってできる。怒鳴りあえる。触れられる。
昨日まで暁は、私に「俺の声は、ちゃんとお前に届いているのか?」って弱弱しい声で、颯太はいない現実を支えようとしてくれていたじゃない。
昨日も今も私を見る真っ直ぐな顔は、今にも泣きだしそうだった。
「百花」
低くて柔らかい声だった。