青春メトロノーム
目を開けると、目の前に颯太の顔があった。
起き上がると、ピアノが置かれているリビング。壁際においてあった段ボールが全て片付いている。
そしてテーブルの上に置かれていたプリンが、二つとも食べられ、跡形もなくなくなっていた。
「プリン!」
急いでテーブルの上を見るが、プリンがなくなっている。
どこにも、ない。きょろきょろ探していたら、頭を軽く小突かれた。
「寝ぼけすぎだろ。プリンはお前が食べないから仏壇に置いたんだってば」
「……え?」
低い声に、私は声の方を見上げる。
すると、私の行動にやや引き気味の颯太がそこに立っていた。
私が作り上げた理想の颯太。小学生最後の試合から時間が止まってしまった颯太を、私が勝手に成長させていた。
「なに、狐につままれたみたいな顔してんだよ」
目の前の颯太は、私が作り上げた颯太より、格好いい。
日に焼けた肌、傷んで茶色くなった髪、暁ぐらいある高身長。
そして、意地悪なくせに甘い笑顔。
「そ、うた?」
「ああ。俺。俺だけど、何。気持ち悪いな」