青春メトロノーム
「……本当にどうしたんだよ」

 両手に持っていたおにぎりを置くと、テーブルの上に会ったティッシュ箱からティッシュを抜き取る。けど、ご飯を持っていた手に、ぺたりと貼りついて取れそうになかった。

「んだよ、これ」
「ぷぷ」
「泣いてんのか、笑ってんのか、どっちだよ、ばか」

手を洗いに行った颯太の、一つ一つの行動が、私には知らない。
私の、つたない想像力のはるか向こうに彼はいる。

「おばさん」

庭の花に水をあげているおばさんに声をかけた。

「あら、起きたの。ごめんね、颯太ったら自分の毛布かけちゃって。汗臭くなかった」
「おばさんには、颯太は見えてる?」

私の問いに、水を上げていたホースをぎゅっと握りしめた。
そして、私の方をみる。

「当たり前でしょ。あんな生意気で大食いで、身長ばっか大きくなった息子が見えないわけないじゃない」

「……じゃあ、」

口の中の水分が涙に奪われた。カラカラの口の中で、舌が震えている。
名前を呼ぶのが、怖い。

「じゃあ、暁はどこ?」

私の問いに、おばさんは目を見開く。
そして、顔色を変えた。
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