青春メトロノーム


「暁はどこ?」
 おばさんは下を向くと、少し寂しげに微笑んだ。

「一番奥の部屋よ」
「いるの?」
おばさんは、こくんと頷いた。

「ええ。仏壇にプリンを添えているでしょう」
「--っ」

その言葉に、膝から崩れ落ちた。
何が起きているのか、わからずに床を見ながら座り込む。
絶望に近い言葉だ。信じたくない。

座り込む私の後ろで、颯太がのしのしと、床を響かせて近づいてきた。

「母さん。百花には暁は見えてる。ちゃんといる」
「でも……」
「上に連れてく」

私は、まるで颯太の大好きなお米が入った米俵のように軽々と肩に担がれるとそのまま二階の階段を上がった。

颯太がいる。触れている。キスしても消えない。透けない。
目の前に本物の颯太がいる。嘘じゃない。本当の、本物の颯太がいるんだ。

階段を上がってすぐの部屋を、乱暴に足で開ける。
すると、中は颯太らしく散らかった部屋だった。
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