青春メトロノーム
――

「優菜、私ね」
「うんうん」
「昨日まで、颯太がいない時間を生きててね。暁は手術成功して、私のために会いに転校してきてくれたの」
「……うん」

遊びのサッカーのはずが、男子たちは上着を脱いで本気を出しだした。
あれはどうするつもりなんだ。予鈴がなるまでに服を着て、着席できるのか。

ただただ、私は視界がぼやけた世界で颯太を見ていた。
バスの事故で死んだ颯太を、私は認めたくなくて自分の妄想で作り上げた颯太をそばに置いた。それを、暁はお兄ちゃんから聞いて無理して会いに来てくれたのに。

「信じられないよね。私、本当に頭がおかしくなっちゃったよね」
「ううん。百花。待って」

優菜は少し考えてから、私に言う。

「あのね、百花のおばさんに聞いたんだけど」
「うちの親に?」
「小学校最後の、颯太のサッカーの試合。あの日、急に颯太が休むって、行かないって言いだしたんだって」
「……うそ」

私の記憶には全くそんなことはない。

「おじさんにも、暁くんの手術を立ち会いうように説得したらしいけど、暁のお父さんも手術の時間を聞いていなかったのに、颯太は知っていたとか」

「なんで?」
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