青春メトロノーム

それは私も分からないけど、と優菜は、バカみたいに真剣にサッカーをしている颯太たちを睨む。

「でも、始発のバス、途中で降りようと提案したのは颯太だったんでしょ?」

 私は知らないはずの記憶なのに、確かに強引に颯太にバスを降りるように言われたような気もする。
 足を見ると、バスの事故でけがした膝の傷は何一つない。

「颯太は馬鹿でしょ。赤点ばっかで、部活馬鹿で、暁くんが帰ってこなくて泣いていた百花より部活馬鹿でしょ。なのに、なんで暁くんの手術が分かったり、まるでバスの事故を知っているような行動だったのかな」

ぽーんっと空にサッカーボールが高く蹴り上げる。
太陽に届きそうなほど、高いボールは、光に反射して隠れてしまった。

「なんて、ね」
 優菜は、笑ったあとにクラスマッチの準備を始めた。
 うちのクラスは、首にかけるタオル。
「返り血が見えないような、黒のタオル」
「ぷっ。そうそう。颯太が隣のクラスの男子と喧嘩するからだよ。レギュラーを颯太に取られちゃったんだって。まあいい加減な颯太に必死で練習した子ならレギュラー取られたら怒るよ」
「颯太が喧嘩するから、黒?」

『隣のクラスに転入予定だった王子さまを奪ってしまったから、隣のクラスはかんかんらしいよ』

暁の時とは理由は違うのに、内容はほぼ変わらない。
このまま本当に、暁はいないまま、時間が過ぎていってしまいそうで怖かった。
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