青春メトロノーム






空が茜色に染まる。
遠くの山に烏が帰っていくのが見える。

もう少し手前の山は、お兄ちゃんが就職する病院がある。
お兄ちゃんはきっと私たちの家に戻ってくる。
おじさんもおばさんもいる。颯太もいる。お兄ちゃんもそろえば昔のように庭でバーベキューができる。
暁が、そこに一緒に座って、毒だけ飛ばしてくるんだ。

「うわっ びっくりした」

茜色の空に染まった身体。
けれど、伸びる影は真っ黒で私の心を映す鏡のように伸びている。

颯太の部活が終わるのを、私は自分の真っ黒な影を見ながら待っていたんだった。

「颯太」
「ちょっと待ってろ」

颯太は踵を返すと、部室の方へ向かう。

サッカー部の部室からは、笑い声が聞こえてくる。

「俺、ラーメンパス」
「なんだよ、彼女かよ」
「レギュラー外すぞ」

「うるせえ、悪いかよ」

――うるせえ、悪いかよ。

颯太は、彼女か聞かれて否定しなかった。
それどころか、からかわれるのも怖くない様子だった。

「悪い悪い。バスで帰るか?」
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