青春メトロノーム

病院とかに置いてある青い皮の車椅子じゃない。
ハートのシールや、流行り物のキャラクターのキーホルダーがぶら下がっている。

「おい、入るぞ」
「お、お兄ちゃん」
「やっぱり。お前、ベットから落ちたな。ほれ」

お兄ちゃんが私をお姫様抱っこして抱きかかえてくれると、車椅子に乗せてくれた。
私の足は、走るのも難しそうな、鶏の骨みたいにがりがりで筋肉が落ちて細い棒きれみたいになっていた。

「昔から寝相が悪かったからな」
「そ、うだよね」
「今日は俺が学校まで車で送っていくから」
 部屋から出ると、廊下のトイレの横に見たことのないドアを見つけた。

お兄ちゃんは慣れた手つきでそのドアの横の開閉ボタンを押す。
すると、普通の家には不釣り合いの、小さなエレベーターが出てきた。

「これ……」

「お前が一階じゃなくて二階の部屋のままがいいってわがまま言ったから、親父が設置してくれたんだ。感謝しろよー。高いんだぞー」

まあ、医大の金を出してもらった俺が言っても説得力ないか、とお兄ちゃんは豪快に笑ってから私をエレベーターに乗せてくれた。
エレベーターは一人用で、私しか乗れなかった。

ふりっ返ったお兄ちゃんは、優しく笑っていた。
ドアが閉まってから、私は大きく唾を飲み込む。

この『時』の中では、私はけがをして車椅子生活なんだ。
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