青春メトロノーム
私が、颯太の試合の応援ではなく暁の手術に付き添った未来だからこうなったんだ。
パジャマの上から太ももをつねる。
私の太ももじゃないみたいに、痛覚はまったくなかった。
エレベーターが開くとまたお兄ちゃんが車椅子を押してリビングへ向かったくれた。
「ねえ、お兄ちゃんが地元に戻ってきたのは、私が足が動かないから?」
「まあ大切な妹も心配だが、お前たちを導く大人は多い方がいいかなって」
「お前たちって」
「おい、颯太、お前、朝練行けよ!」
暁の声に、ハッと顔を上げた。
急いで自分でタイヤを回してリビングに飛び込んだ。
サラサラの髪。すらりとした身長。王子様のような甘い笑顔。
その王子様が、納豆を食べながら足で颯太を蹴っていた。
「あ、きら」
「おはよー。お前、起きるの遅すぎじゃねえか」
「暁……」
「お前の納豆はもらったけど、おばさんがウインナー追加してるから待っとけ」
目の前で、暁が納豆を食べている。
その姿に、泣けてきた。