青春メトロノーム

「うそ、どこが?」
「朝から、お前、変だった」
「そう? おにいちゃんが返ってきて浮かれてるのかな」

バタバタと走ってくる颯太の足音がして、私はそちらを向く。

「優菜を蹴ってなかった?」
「先にあいつが俺を蹴った」
「女の子に、信じらんない」
「だってさ」

颯太は私と暁を交互に見たあと、少し首を傾げてから私の車椅子を押そうとした。

けれど、暁がそれを止める。

「なあ、颯太もおかしいと思うだろ」
「なにが?」
「百花の様子。朝から変だろ」

すうっと颯太から笑顔が消え、暁を睨みつける。

「寝ぐせが変なのは毎日だっての」
「違う。今、ふざけんのはやめろ」

二人の言い合いに、私はついクスッと笑ってしまった。

「百花?」
その様子に、颯太が今度は訝しげに私の名前を呼んだ。


「だって、暁が私のこと変だって言うけど、二人は変わらないからおかしくて」

くすくすと笑ったあと、私は自分で車椅子を動かした。

「私ね、おかしいよ。だって今沢山の奇跡の中、こうやって三人で一緒に居られるんだもん。それを実感したら、なんだかとても幸せでさ。当たり前だと思っていた今が、実はすっごい努力したからだって思ったら、幸せな気分にならない?」

私が微笑んでも、二人は首を傾げるだけだった。

でも、それでいいと私は思った。二人はあんな苦しい思いをしなければいいと、願わずにはいられなかったんだ。
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