青春メトロノーム
「颯太っ」
「これ、百花が持ってたのか。どこ行ったんだろって思ってたんだよな」
「懐かしいな、これ誰が持っておくか喧嘩したよな」
「ふうん。大切なものなんだ。あ、やば、委員会の話し合いが始まっちゃう。暁くん、これ代わりに食べて」
優菜がデザートに食べる予定だったゼリーを暁におしつけると、『ノート探さなきゃ』とバタバタ走り去っていった。
「あの、それ、私が持っていたいんだけど」
おずおずと二人に手を差し出したが、急に二人は真剣なまなざしでノートを見つめ、ページをめくっていく。
「颯太? 暁?」
「これ、俺の字だな」
暁がつぶやくと、颯太もノートの文字を指で追う。
「これも俺の字だ」
「あはは。二人とも自分の字を覚えてるんだね。私にも見せて」
二人がノートを私に差し出すと、『俺たちはずっと一緒だろ』と書きなぐった颯太の字が出てきた。小学生の字であっても汚い。
「うわ。颯太、昔から字が――」
『百花がいない世界は嘘だ。俺は時計を壊す』
書きなぐった字は、小学生の颯太の字ではない。でも少し右上がりぎみな書き方は颯太のままだった。
これは私が死んだ時に颯太が書いた字なのかもしれないと気づき、ハッと口を手で抑えた。
「ちょっとは字が上手くなってるね」
「俺は、このノートはあの時以来触ってねえよ。俺が書くはずねえ」
「えー……」
「百花、こっち、俺の字だ」