青春メトロノーム
暁が次のページをめくった。
『颯太を探す百花を見ているのは辛い。俺は時を壊す』
暁の字を初めて見た。綺麗な、教科書のような字。
『時計を壊せ』
だったらこれも暁の字だ。私が、暁が消えた世界で、颯太から見せてもらったノートだ。
「んで、百花。これはお前の字だ」
次のノートの、隅っこに小さく『メトロノームを壊して』と書かれていた。
まぎれもなく、私の字。上手くなくて、丸っこくて、下手くそな字。
「……おかしいと思ってたんだよ、百花」
「そうそう。俺たち、ずっとおかしいって思ってはいたんだよな」
颯太と暁が、私の車椅子の両端に回り込み、逃げられなくなった。
優菜もお昼休みが終わるまでは戻ってこない。
「誰にも伝えていない手術の時間を、百花が知っていた」
「俺が乗るはずだったバスが、事故にあった。百花が乗るなって言ったよな」
「虫の知らせってやつかな。ずっと一緒にいたもんね。私たちは、ずっと一緒って言ったでしょ。だからきっと神様が危険を知らせてくれたんだよ」
ね、と二人に笑いかけるが、二人は笑わなかった。
たらりと頬を伝う汗。二人は考え込んでいる。