青春メトロノーム


午後は、颯太は鼾をかいて豪快に寝ていて、先生に起こされていた。
暁は真面目に授業を聞いているふりをして、颯太の寝顔をノートに写していた。

私が消しゴムを投げて注意すると、白目の颯太がそっくりで笑ってしまう。
ころころと暁の手のひらから落ちた消しゴム。
それに手を伸ばそうとしても、身体は全く動かない。
足に力が入らないせいで、自分では下に手を伸ばすことができなかった。

それに気づいて、慣れた手つきで暁が私に消しゴムを拾ってくれた。

私は少しだけ切なくて、寂しくて、でも生きてるのだからと納得させた。


放課後は、颯太はサッカー。私と暁は、お兄ちゃんの車が来るまで颯太の部活している様子を見ながらクラスマッチのタオルに出席番号を縫いつけていく。

授業中の馬鹿みたいな颯太はどこへやら。
真剣に部活をしている颯太は、息をするのを忘れるぐらい見入ってしまう。

そういえば、昔。小学生最後のサッカーの試合で勝ったら付き合おうって言ってきたよね。
暁がいないのに、と私は断った。あの時、私の世界には、私の幻想の中の颯太が、一番だったから。
私が作り出した颯太との、透明な触れることのないキスは、誰にも内緒だ。

「俺も部活しようかな」
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