青春メトロノーム
ふらふらと花が揺れている、真っ暗な夜。
花は右も左もわからずに、ただ、揺れている。
風任せ。どちらに揺れても戻ってきている。
おばさんはリビングのピアノの前で椅子に座り、電気もつけずにその花を見ていた。
「おばさん、あのね」
「うん。……そうね」
おばさんは立ち上がると、手に持っていたメトロノームを私に手渡してくれた。
そして私の手をぎゅっと握りしめる。
「あの二人は、未熟児で生まれて、暁は心臓に爆弾がついていて、いつ爆発するかわからない中、懸命にいきてくれた。二人が生まれただけで、おばさんは幸せだった」
「おばさん?」
「三回、花が枯れた。昨日まで咲いていた花が、次の日枯れていた。そのたびに暁だったり颯太だったり、貴方だったり。一緒に消えてしまっていたの」
おばさんが泣く。
私の頬にも涙が伝っていく。
伝染して、部屋中が泣いているように思えた。
「なぜ、枯れてしまうのか、なぜあなた達が一人欠けていくのか、悲しかったわ。だから、お願い。どうか、次は」
次は。
「おばさん。今まで見守ってくれていてありがとう。もうこれで本当に最後だよ」
あのお店に連れて行ってくれたのは、おばさんだったね。
なぜ時計を壊すとメトロノームのように時間を移動して触れて、戻ってこれるのか分からない。
分からないけど、私たちはその方法を知っていた。
そして、これが最後であることも知っていた。