青春メトロノーム
放課後まで私は後ろの暁も颯太も見るのが怖くて一度も振りかえることも出来なかった。
ホームルームが終わると、優菜に声をかけられる前に飛び出して、暁達の家を訪ねた。
おじさんと颯太だけのオトコヤモメな家なので、一度も家に入れて貰えたことはない。たまにおじさんの白衣が庭にしわだらけで干されているけれど、雑草でぼうぼうの庭だった。
私の家は私が生まれる前に建てられた築20年近い日本家屋。
颯太たちの家は、煉瓦で洋風なオシャレな家なのに、玄関はスライド式の擦りガラスでちぐはぐだった。
そんな二人の家に一歩踏む込むと、私は目を疑う。
ふわりとピンクの花が揺れていた。
インターホンを押して思わず庭に目をやる。
颯太と暁の家に、ピンクの花が揺れていたんだ。
パタパタとスリッパの音がして、誰かも確認もせずに玄関が開いた。
擦りガラスの玄関は、廊下から走ってくる二人が良く見えて好きだった。
「あら、百花ちゃん」
「お手伝いに来ました。あと、ピアノも教えてほしくて」
親に持たされたドーナツの入った箱を顔まで持ち上げると、おばさんは優しく笑った。
「散らかってるから他の部屋には入らないでね。ピアノのあるリビングだけしか、まだ片付いていないのよ」